私は、1996年から日本画を学びました。 ここには沢山の友と共に2002年まで制作した作品の一部を掲載しています。
雨模様電電虫。
雨で霞んだ電気街に群がった人々が、青になるのを待っています。
ネオンやお店の明りが綺麗に霞む中、ゆっくりと増えてゆく。
どこからともなく現れるその人間が
なにか違った生き物の様で
雨音と歪んだ光の中
不思議な感覚に包まれたのを覚えています。
時代の最先端をゆくこの街にも雨は降ります。
上空に歪んで光るネオンが綺麗だから
電電虫はここへ集まるのではないでしょうか。
私もその一人です。
国道を走る乗り物は全て
路地裏で見るものとは
まるで違う。
凶器に見えてしまうほど
その塊は
早い。
パンでもかじりながら
ハンドルを間違えたトラックは
いとも容易く
歩道を貫く。
真っ暗な室内でテレビに釘付けになる
画面の向こうで起きている事態について様々な角度から考える。
悲しい事件もほんの数分で笑いに変わる
可愛らしい動物が映り
ミサイルについて話し出す。
どこかの偉い人間が世の中について熱弁し
青森は雨らしい。
22歳の男はどんな結論を出せたのだろうか。
夢中になって観ているブラウン管の表面にきれいな花の絵が映る。
灰が床に落ちたその時
手には美しいニコチンの花が咲いていた。
秋葉原ガード下。
ハンダの臭いがした。
意味の解らない記号が並び、
いかがわしい機材が羅列していた。
コンデンサー
トランジスター
発光ダイオード…
半畳もない空間を取り仕切る親父は
何でも知っていた。
図書室で借りたトランシーバーの
回路図を片手に材料を揃える。
大人バッタも子供バッタも入り乱れ
お目当ての部品を探す。
何度訪れても心が躍った。
しばらくぶりに訪れた。
一帯は家電の店に変わっていた。
最近訪れた。
パソコン用品の店に変わっていた。
現在訪れたれば
メイドが沢山見つかるらしい。
一人
目の不自由な子供が歩いてた
彼を見た日
街の理不尽な造りを知った
人も
建物も
音声も
親切な刃物に見えた
当然のように過ごしていた
知ってはいたが解っていなかった
思う自分に
僕が笑う
絵本の表紙に
本を読む熊の絵が書いてあった。
その熊が持つ本の表紙にも
本を読む熊の絵が書いてあって、
その中の熊が持つ本にまた
本を読む熊の絵が書いてある
表紙の絵本が好きだった。
内容は全く覚えていないが
その合わせ鏡のような
永遠に続いてゆく世界に
心が躍った記憶がある。
・・・
キュウリをかじるコオロギを
カマキリが狙っている。
息を潜めてじっと待つ。
蛾の幼虫をアマガエルが
睨んでいる。
もう口から舌が少し出ている。
心躍る。
じっと目を凝らす。
箱を見つめる。
むしかごには
目を凝らす少年が 一人映っている。
…
今私は
鏡をみている。
授業料が足りない
働いても働いても足りない
イメージが湧かない
考えても考えても湧かない
悩みが尽きない
割り切っても割り切っても尽きない
日暮れに気づかない
影が動いても影は動いても
気づかない
見ていて飽きない
過ぎても過ぎても飽きない
モヤモヤした輪郭のなかで
見たもの
途方もない
たかが画面だと、ナメてかかれば必ず訪れる時間
途方もない。
その場を離れたり
ひっくり返したり
開き直ってみたり
長い長い
にらみあい
にらめっこしましょう
ワラウヤツは
負けよ
…
染み付いた風景。
団地で生まれ団地で育った私には
19歳までその2DKの間取りが全てだった。
同じ造り。
同じ風景。
『ただいま』
と鉄製の扉を開けると知らない人が
『おかえり』
と自然な返事をくれたおかしな夢。
100棟ほどある白いコンクリート製住居のなかの
自分のその1棟が解らなくなる夢。
よく見た夢たち。
向かいの27号棟には様々な人が住んでいた。
外国人
すぐ怒る老人
若い夫婦…
ここで過ごした時間は、まだ私の半分以上を形成している。
沢山のものと出会いたい。
日本語じゃなかった
顔も
性別も
コロコロと変わっていた
すぐ怒るんだ
ここの人
少しだけ社会的にも理解できない部分があったけど
たまに笑ってた
若い夫婦が住んでた
喧嘩もしていたな
笑い声もしてたな
いつもいないんだ
この家
校舎の吹き抜けから
一階に広げた300枚のパネルを眺める。
何が出来上がるかはお楽しみ。
四人の合作は六メートルを超えた。
自由に組み替えられ、
作品の1ピースとなったそれぞれの小作品。
風景から人物まで、
粉々になって色に変わる。
噛めば噛むほど
うま味が広がるもの。
見れば見るほど
想像が広がるもの。
するめ
罵声が聞こえる。
笑い声が聞こえる。
混沌としていて
臭い。
これから飛び込む世の中の
酸いも甘いも混ぜこぜの煮込みを流し込んで
体を温めるんだ。
良く温まったら
目が回らないようにだけ気をつけて
飛び込もう。
十五夜の夕暮れのころ。
女三の宮は仏前で念誦し、
鈴虫を放たせた庭にのぞむ端近で、
若い尼君たちが花や木を供えて、
閼伽坏の音をたてたりしている。
やがて源氏が訪れ、
宮とともに経を誦し、
親しく語らいながら鈴虫の音に聴き入る…