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医者『えーと』
『家族から重度のアルコール依存症患者が出たことは、その子供達も思った以上に重く受け止めてほしいのです』
海を望む白く汚れた診察室で、私と弟は顔を見合わせ笑った。
醜い患者に付き添い歩く兄弟は
何故か仲が良い。
朝方の土砂降りで、病棟の周りには大きな水溜りが青空を映していた。
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医者『お仕事は?』
患者『退職しました!』
医者『お酒はやめられますか?』
患者『ふあぁ?そりゃやめられますよ』
医者『何故今まで飲んでいたのですか?』
患者『暇だからですかねえぇ。』
医者『やることがないからお酒を飲んでただけ?』
患者『ま、そうですかねえぇ。』
医者『それが癖になったと。癖って簡単に治りますか?』
患者『・・・・・・』
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20年以上疎遠になっていた患者と再会したあの日は温かい小春日和だった。
青っぽい空中廊下だった。
医者『何歳から飲んでますか?』
患者『二十歳からですかねえぇ』
医者『一日どのくらい飲みました?』
患者『酒の種類によりますかねっ』
あの日頂いたCDRの存在を思い出し医者に渡してみる。
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医者『背骨曲がってますがどうでもよし・・・・・・んー』
(カチカチ)
私『この白いのなんですか?』
医者『ああ、胃がんやってますね』
(カチカチ)
脳のMRI画像にたどり着く。
医者『典型的な依存症の萎縮です』
医者『・・ここの患者の半分は胃を切除してます。どのくらい取ったの?』
患者『3分の1ですかねえぇ』
医者『何歳のとき?』
患者『40ぐらいじゃないですかねえぇ』
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酒に逃げモノを壊し家族を殴り
わが物顔で好き放題していた
私の怨敵はもう人ではなかった。
歩けず喋れず眼球は揺れ続け
記憶の弱いそれは
猿のようなただの悍ましい『形』だった。
腹を括るしかなかった。
アトリエに糞尿を撒き散らし
火遊びをするその臭い人形の
でも血の色からは
私は永久に逃れられないのだと。
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医者『アルコール依存症の原因は、端的に言えば、遺伝ですから』
医者『退院してもやることがない人は戻って来ますよ』
ツクヅク思う。
死んでほしい輩ほど
死なないものなのだ。
ならば私は
少しでも長く
死んで欲しくない人間に
なるだけなのだ。
ツクヅクボウシは
美しい。
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