『底無し沼だからあそこへ入っちゃだめ』
『危険ですので立入を禁止します』
よく悪戯をしたその沼を10年ぶりに訪れた
遊歩道ができ
桜は満開
沼はコンクリートで固められていた
遊歩道の脇には小川に似た流れが創られていたが
花びらは行きば無くひしめき合っていた
沈んだ花びら
浮かんだ花びら
あの底無しの沼に想いを馳せながら
差し込む木漏れ日を見ていた
ポツ
ポツ
ぽつ
カナカナカナ
蜩(ひぐらし)が夜を呼ぶ
声は重なり
混ざり
また沈黙する
左から
右から
カナカナカナ
満月の日は新しい命が
たくさん生まれるそうだ
しかしまた消えていく命も
多いらしい
まんまるの二つのライトが
交互に点滅しながら
灰色の金属音を轟かせた
開かずの踏切
車も人も
いらいらせぬよう
おかしくならぬよう
じっと耐えて待っている
押し付けがましい警笛は
人々の安全を願う
夜空の星も月も意識からは
かき消されていく
夜空の満月に気付かない
消えないかわりに
生まれない