大学を出てから何を描こうか考えていた
ふらふらと散歩を繰り返す毎日
慣れは真新しさを食べてしまうようで
何を見ても心が反応しない
どうやって抜け出せばよいのか…
とりあえず手を動かす
今こうして久しぶりに対面すると
澱んでいたのは水面ではなく
私だったのかと思わずにはいられない
よどんだ自分がもう一枚
懐かしい
夕方
澱んでいた私は
いつものようにフラフラと散歩へ出かけた
ゆっくりと鉄橋を進む
黄色い各駅停車が見えた
乗客の表情がしっかりと見てとれるスピードで
次の駅に止まる準備をしていた
一駅づつ
丁寧に停車を繰り返しながら
様々な人々を運んでいる
その一人ひとりの頭の中を覗いたような残像が
形を変え
色を変え
水面に浮かんだのを見たとき
スッキリとした意欲が湧き出した
手にとれない人の気配
何を描くかで悩んでいた私が
何を表現したいのか真剣に見つめたこの頃
今思い返せば
長い制作人生の1テーマをここで手に入れたような気がする
傘に付いた水滴と湿気で蒸した車内
頼りないエアコンのドライ機能
手摺りに掛けられたままの忘れられた傘
憂鬱な風景
傘をさして水面を見つめ続ける
疲れ
苛立ち
この労力は無意味だと自分にぶつけてはあきらめて
また見つめては苛立って
気持ちは萎んで
それでも土手下にうずくまり続けた私は
徐々に憂鬱の向こう側へ足を踏み入れてゆく
濡れたシャツも
スケッチブックも
持ちづらい傘も
何も気にならない
どこまでも行ける
そんな気分になった
何時間か経った頃
出会う一本の美しい線
車窓から漏れた明かりが
雨粒で砕かれた一瞬に
ときめく
どうやら
憂鬱の向こう側には
新しい景色が広がっているようだ
後ろ足たくましく
鼓膜丸出しで
指の間に水掻き
平泳ぎ
下瞼を閉じ
指先に吸盤
オスは鳴く
食べ物はイキモノ
カエルが
帰りの電車を見送り
飛び込んだ