重ね方で
青が
黒や深緑に 変わる絵の具がある
昔から使われてきたその染料は溶いた 指も筆も紙も
青くしてしまう
日本藍
船
水
家
全て
深い色に
包まれていた
それだけの理由が
材料を選ばせた
幾度の冷や汗
次を生む
苦し楽し
あゐゐろ
あゐゐる
毎日まいにち
家と職場を行き来する人々
次々と扉の中へ足を踏み入れてゆく
そこかしこで吐き出されるためいき
吐き出してまた
次へ進む
毎日まいにち
水がゆらいでいる
東京近郊を転々としている
埼玉に住みはじめた頃
海も山もない土地をあてなく走っても
ただ平らな大地が果てしなく続いた
私に何も入らないその風景は退屈そのもので
見たものが頭の後ろから
すぐに遠ざかっていった
やがて
自分の理想的な場所とは一体どんなところか考えたが
全く見当がつかないまま
再び引越しの準備に入っていった
思い出してみれば
どこにいても
飽きる度に去る事を
繰り返している
どっしりと腰を据え
変わってゆく事を受け入れ
生き続けたものたちは
風景になる
私が
まほろばに出会う頃には
私自身に
懲り懲りしていることだろう
綺麗な青空に
大きな入道雲が一つ
聳えている
外し忘れたカーテンが
丸く風を抱え
すぐに放した
さようなら埼玉
こんにちは神奈川
箱の中の人
目だけ開いてる
僕は回ってる
だけど止まってる
僕は無口になる
それも僕だから
なんてつまらない
なんて落ち着かない
君は細かくもなく
一つにも見えない…
『箱の中の人』
(滝本晃司)より