おはなし一巻  四頁

M30
M30

沼に咲く木漏れ日

 

『底無し沼だからあそこへ入っちゃだめ』

『危険ですので立入を禁止します』

よく悪戯をしたその沼を10年ぶりに訪れた
遊歩道ができ
桜は満開
沼はコンクリートで固められていた

遊歩道の脇には小川に似た流れが創られていたが
花びらは行きば無くひしめき合っていた

沈んだ花びら
浮かんだ花びら

あの底無しの沼に想いを馳せながら
差し込む木漏れ日を見ていた


F20
F20

空の涙

 

ポツ

ポツ

 

ぽつ


1800×300
1800×300

蝉時雨

 

カナカナカナ

蜩(ひぐらし)が夜を呼ぶ

声は重なり
混ざり
また沈黙する

左から
右から
カナカナカナ


F40
F40

警笛

 

満月の日は新しい命が

たくさん生まれるそうだ
しかしまた消えていく命も

多いらしい

まんまるの二つのライトが

交互に点滅しながら
灰色の金属音を轟かせた

開かずの踏切


車も人も

いらいらせぬよう
おかしくならぬよう
じっと耐えて待っている

押し付けがましい警笛は

人々の安全を願う

夜空の星も月も意識からは

かき消されていく

夜空の満月に気付かない

消えないかわりに
生まれない