おはなし一巻 五頁

M10
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澱み

 

大学を出てから何を描こうか考えていた
ふらふらと散歩を繰り返す毎日
慣れは真新しさを食べてしまうようで
何を見ても心が反応しない

どうやって抜け出せばよいのか…
とりあえず手を動かす


今こうして久しぶりに対面すると
澱んでいたのは水面ではなく
私だったのかと思わずにはいられない


M10
M10

よどみ

 

よどんだ自分がもう一枚

懐かしい


M10
M10

各駅停車

 

夕方
澱んでいた私は
いつものようにフラフラと散歩へ出かけた
ゆっくりと鉄橋を進む
黄色い各駅停車が見えた

乗客の表情がしっかりと見てとれるスピードで
次の駅に止まる準備をしていた

一駅づつ
丁寧に停車を繰り返しながら
様々な人々を運んでいる

その一人ひとりの頭の中を覗いたような残像が
形を変え
色を変え
水面に浮かんだのを見たとき
スッキリとした意欲が湧き出した

手にとれない人の気配

何を描くかで悩んでいた私が
何を表現したいのか真剣に見つめたこの頃
今思い返せば
長い制作人生の1テーマをここで手に入れたような気がする


M10
M10

各駅の憂鬱

 

傘に付いた水滴と湿気で蒸した車内
頼りないエアコンのドライ機能
手摺りに掛けられたままの忘れられた傘

憂鬱な風景

傘をさして水面を見つめ続ける
疲れ
苛立ち
この労力は無意味だと自分にぶつけてはあきらめて
また見つめては苛立って
気持ちは萎んで

それでも土手下にうずくまり続けた私は
徐々に憂鬱の向こう側へ足を踏み入れてゆく

濡れたシャツも
スケッチブックも
持ちづらい傘も
何も気にならない
どこまでも行ける
そんな気分になった

何時間か経った頃
出会う一本の美しい線
車窓から漏れた明かりが
雨粒で砕かれた一瞬に
ときめく

どうやら
憂鬱の向こう側には
新しい景色が広がっているようだ


M10
M10

あまガエリ

 

後ろ足たくましく
鼓膜丸出しで
指の間に水掻き
平泳ぎ
下瞼を閉じ
指先に吸盤
オスは鳴く
食べ物はイキモノ

カエルが

帰りの電車を見送り
飛び込んだ