ミナモ


2003年 M30
2003年 M30

沼に咲く木漏れ日

 

『底無し沼だからあそこへ入っちゃだめ』

『危険ですので立入を禁止します』

よく悪戯をしたその沼を10年ぶりに訪れた
遊歩道ができ
桜は満開
沼はコンクリートで固められていた

遊歩道の脇には小川に似た流れが創られていたが
花びらは行きば無くひしめき合っていた

沈んだ花びら
浮かんだ花びら

あの底無しの沼に想いを馳せながら
差し込む木漏れ日を見ていた


2003年 1800×255
2003年 1800×255

蝉時雨

 

ポツ

ポツ

 

ぽつ


2003年 F20
2003年 F20

空の涙

 

カナカナカナ

蜩(ひぐらし)が夜を呼ぶ

声は重なり
混ざり
また沈黙する

左から
右から
カナカナカナ


2003年 1445×700mm
2003年 1445×700mm

ダンス

 

さっきまでたくさんの傘が咲いていた夜の繁華街は

水溜まりと人々で賑やかだった

ネオンが埋めつくす建物の中は

きっと愉しみであふれているだろう

 

私は水溜まりを飛び越えているところ

次は左足で踏み切ろう

今度は両足て着地してみよう

 

また雨粒が堕ちて来た

ネオンがゆがむ

傘が咲きだす

 

私は一人


2005年 M10
2005年 M10

澱み

 

大学を出てから何を描こうか考えていた
ふらふらと散歩を繰り返す毎日
慣れは真新しさを食べてしまうようで
何を見ても心が反応しない

どうやって抜け出せばよいのか…
とりあえず手を動かす


今こうして久しぶりに対面すると
澱んでいたのは水面ではなく
私だったのかと思わずにはいられない


2005年 M10
2005年 M10

よどみ

 

よどんだ自分がもう一枚

懐かしい


2004年 M10
2004年 M10

すすき(下)

 

ゆがむ


2006年 M10
2006年 M10

各駅停車

 

夕方
澱んでいた私は
いつものようにフラフラと散歩へ出かけた
ゆっくりと鉄橋を進む
黄色い各駅停車が見えた

乗客の表情がしっかりと見てとれるスピードで
次の駅に止まる準備をしていた

一駅づつ
丁寧に停車を繰り返しながら
様々な人々を運んでいる

その一人ひとりの頭の中を覗いたような残像が
形を変え
色を変え
水面に浮かんだのを見たとき
スッキリとした意欲が湧き出した

手にとれない人の気配

何を描くかで悩んでいた私が
何を表現したいのか真剣に見つめたこの頃
今思い返せば
長い制作人生の1テーマをここで手に入れたような気がする


2005年 M10
2005年 M10

どんこう

 

毎日色々な表情をみせてくれるものは

世の中にいろいろあるものなんだなと思う

 

時間が変わり

天候が変わり

いつもの土手でまたうずくまる

 

今日は良い天気だった

風も穏やかで

ゆったりとした一日だった

 

揺らぐ各駅停車には

どんこう

という呼び名が

ふさわしい


2006年 1445×700mm
2006年 1445×700mm

最終電車

 

花見川と名前が付いてはいるが

正直花のイメージからは掛け離れた川が流れている

サイクリングロードは延々と

50キロ上流まで続いていて

少年の思い切った旅の

行き先だったその道の最後は

ひょうたんのなる

鄙びた畑で終わっている

 

列車から見ていた川が

それだと気づくまで

すっかり忘れていたが

旅の終りに出会った

あの切ない光景

帰り道はなんと遠く感じた事か

 

ただ帰りたい

ペダルを漕いだ

秋の夕暮れだった

 

太平洋へ向かって流れる水の上を

直角に 終電が家へ向かう


2006年 M10
2006年 M10

各駅の憂鬱

 

傘に付いた水滴と湿気で蒸した車内
頼りないエアコンのドライ機能
手摺りに掛けられたままの忘れられた傘

憂鬱な風景

傘をさして水面を見つめ続ける
疲れ
苛立ち
この労力は無意味だと自分にぶつけてはあきらめて
また見つめては苛立って
気持ちは萎んで

それでも土手下にうずくまり続けた私は
徐々に憂鬱の向こう側へ足を踏み入れてゆく

濡れたシャツも
スケッチブックも
持ちづらい傘も
何も気にならない
どこまでも行ける
そんな気分になった

何時間か経った頃
出会う一本の美しい線
車窓から漏れた明かりが
雨粒で砕かれた一瞬に
ときめく

どうやら
憂鬱の向こう側には
新しい景色が広がっているようだ


2006年 M10
2006年 M10

あまガエリ

 

後ろ足たくましく
鼓膜丸出しで
指の間に水掻き
平泳ぎ
下瞼を閉じ
指先に吸盤
オスは鳴く
食べ物はイキモノ

カエルが

帰りの電車を見送り
飛び込んだ


2005年 F15
2005年 F15

夕凪


風が止まった
海と陸の呼吸が揃った

朝と夕に一度づつ
凪が来る

すっかり落ち着いた漁船も
遠くに見える細い運河も
ゆっくりと碧の中へ浸ってゆく

まばたきをした後にだけ
暮れている事に気がつくような

ゆったりとした時間
やがて碧は漆黒へと変わり
陸からの風が海へと向かうころ
すべてが眠りにつく

夕凪のあとの風は
全てのイキモノの寝息から

生まれる


2007年 M30
2007年 M30

Water Express

 

空港からは今日も

今も

季節を飛び越え飛行機が飛んでいく

 

アタッシュケースに

トランクに

沢山の想いを詰め込んで

空港へ向かう人々が見えた

 

座席に座る疲れたサラリーマンは

羨ましそうに

恨めしそうに

紅いスカーフを睨み

車内を行ったり来たりするビールの缶には

関心がない

 

何百もの

人々は家路に着き

飛行機は飛び立ち

缶は捨てられ続けている

 

人々を乗せたline

黒い水面を飛ぶ


2008年 M20
2008年 M20

ためいき

 

毎日まいにち
家と職場を行き来する人々
次々と扉の中へ足を踏み入れてゆく
そこかしこで吐き出されるためいき
吐き出してまた
次へ進む

毎日まいにち
水がゆらいでいる


2010年 M30
2010年 M30

回想ライン

 

帰る

来る

行く

去る

 

つまりは

死ぬ

生きる

 

全ては

めぐり

回る


2010年 F30
2010年 F30

外待雨 ーホマチアメー

 

特定の人に降る雨

局地的な雨のことを

そう呼ぶ

 

雨男が本当にいるならば

それは僕だった

全ての行事という行事を

暗く分厚い雲の下で繰り広げ

なにもかもを湿らせてきた

仲間も家族も

僕を雨男と呼んでいた

 

人が何かを待つ時

祈ることがあるだろう

待たれる側も

待っていてくれと

願うことがあるだろう

 

来ないでと祈り

降らないでと

願うこともある

裏切られた時

期待外れな場合

祈りと願いをまぜこぜにして

怒りや諦めに換える

 

そうして出来上がった

雨男

 

僕に降る雨は

外待雨

 

雨を

待っている


2017年 M6
2017年 M6

逢ワセ鏡

海の側にある

遊園地。

水面にも

遊園地。


初々しい二人が

ゆっくりと坂を登り始めた。

景色は徐々に

遠くまで繋がりだす。


手に汗握る側と

にこにこ笑う側が

隣り合わせで座り

山の頂点で止まった。


歯を喰いしばる側と

笑いが止まらない側。


猛スピードで

乱高下を繰り返す。


下り終えると

ほっとする側。

がっかりする側。


また坂にさしかかると

次の準備をする側。

わくわくが始まる側。


登り始めると

また

手に汗握る側と

にこにこ笑う側。


ここは

海の側にある

遊園地。

水面に映るも

 

遊園地。


2020年 P6
2020年 P6

丘に立っているのに

風がない。

遠くの街灯りは

だんだんと滲んできた。