イキモノ壱

私は、生き物が大好きです。

泳ぐ魚たち。日差しを堂々と浴びる植物たち。ひっそりと生えるキノコたち。行き交う人々。

ここにはそんなイキモノを題材にした作品を掲載しています。


2003年 2150×1700mm
2003年 2150×1700mm

寝息

 

真冬
草木は土の中で眠る
その息吹は大地を這い海を渡り
やがて春の空気とすれ違う
枝は夏の間
空をめがけその腕をどこまでも広げた
やがて葉は土へ還り

残されたその腕は眠っている

 

枯れていない
ただ待っている
地球の反対側の風が届くまで
スヤスヤと眠り続けている

わずかな若葉が
今にも枝の節目から顔をのぞかせようとしている

そろそろあの寝息は
地球の反対側に届いただろうか


2004年 M10
2004年 M10

すすき(上)

 

そよぐ


2004年 2150×1700mm
2004年 2150×1700mm

待つ

 

木々は待つ

春を

漣は待つ

凪を

土は待つ

雨を

草は待つ

日差しを

田は待つ

稔りを


私は待つ


2006年 1450×700mm
2006年 1450×700mm

まほろば

 

東京近郊を転々としている
埼玉に住みはじめた頃
海も山もない土地をあてなく走っても
ただ平らな大地が果てしなく続いた

私に何も入らないその風景は退屈そのもので
見たものが頭の後ろから
すぐに遠ざかっていった
やがて
自分の理想的な場所とは一体どんなところか考えたが
全く見当がつかないまま
再び引越しの準備に入っていった
思い出してみれば
どこにいても
飽きる度に去る事を
繰り返している

どっしりと腰を据え
変わってゆく事を受け入れ
生き続けたものたちは
風景になる

私が
まほろばに出会う頃には
私自身に
懲り懲りしていることだろう

綺麗な青空に
大きな入道雲が一つ
聳えている
外し忘れたカーテンが
丸く風を抱え
すぐに放した

さようなら埼玉
こんにちは神奈川


2008年 F10
2008年 F10

イキモノヂルシ

 

続々と 少年少女が集まって来る

縦笛が飛び出した ランドセル

ジャングルジムの脇が 彼らの 待ち合わせ場所なのか

 

若葉が芽吹く

 

春先の学校は 早くに終わった気がする

新しい友達ができると

それまで以上に 放課後が 楽しくなったものだ

 

枝がのびる

 

大きくなれ

大きくなってまた

アツマレ

大きくなっても

ノボレ

何があっても

大きくなあれ

 

咲いて

枯れて

散って

待ち

 

また咲いた

 

 僕タチ

イキモノ


2008年 M10
2008年 M10

うつしおみ

 

埼玉からここへ移り住んだ

駅前の大銀杏がこの町のシンボルだとすぐに気がついた

ここに住むことにした理由の一つに

この風景があった

住人は少ないが

この木の前を通り

この町を出る

 

ある日

人々のうつしおみを見つめてきた

この大きな木が切り倒された

一段と広くなった青空

 

これも空蝉と

私は都心へ向かう


2010年 S100
2010年 S100

キラワレモノノ図

 

キラワレモノが

雨上がりの夜に 集まった

ほらよくみてごらん

キラワレモノタチを

教えてごらん

キライなわけを

 

何となくなんて

見ないで

それとなくなんて

話さないで

ヤツラは 許してくれないよ

 

美しい夜に

キラワレモノタチが

話し合って 決めたらしい

 

キミタチヲ

キラウコト


2010年 M30
2010年 M30

子実体

 

小学生の頃

昼寝している隙に家猫が窓の隙間をくぐり抜けた

目が覚めた夕方

何者かに蹴り殺された彼の死体が

隣の家の軒下から見つかった

学校からの帰り道は

決まって裏の森でキノコを採って帰る子供だったが

その森に母と弟は

泣きながらその屍を埋めに行った

父は私を猫殺しと罵り

それから私は父も猫も嫌いになった

 

25年たったある日

二匹の猫を飼おうと思った

森で見つけたキノコのせいなのだろうか

ただ木漏れ日を探しに森を訪れただけだった

 

私の脇に猫が二匹居る

 

私は

追いかけているのだろうか

追いかけられているのだろうか

暑くて寝苦しい


2013年 M10
2013年 M10

アイサレルモノ

 

私ニハ

欲シイモノガ

山ホドアル

 

豊カニナリタイ

幸セニナリタイ

 

緑ニ囲マレ

ナニ不自由ナク

 

長生キヲシタイ

 

欲シイモノガ

山ホドアル

 

コノママデ

イタクナイ


2013年 M10
2013年 M10

アイスルモノ

 

僕ニハ

欲シイモノガ

何モナイ

 

貧乏ダケド

貧シクナイ

 

海ヲ見テ

山ヲ歩イテ

 

命ノ器ヲ

スキナコトデ

 

埋メ尽クス

 

欲シイモノハ

ナニモナイ

 

コノママデ

イタイ


2013年 M6
2013年 M6

 

塊ニナッテ

浮遊スル

 

ソレハ

魂ニナル


2013年 M6
2013年 M6

 

タッタ一夜ノ命


2013年 M6
2013年 M6

 

捩レテモ

開イテモ

ヨリ高ク


2013年 M6
2013年 M6

 

ヤブヲモ

枯ラス

ソノ

チカラ

 

カラミツケ


2015年 M6
2015年 M6

新生

 

あなたの門出

日を追い

老いてく

絵を

描いた

 

この子が

くろぐろ

くたびれるまで

いついつまでも

初心です

 


2015年 F6
2015年 F6

想望


2017年 1450×700mm
2017年 1450×700mm

化粧ヲスル。

 

レトロな椅子に腰かけて

何やら

慣れた手つき

 

塗って

触って

叩いたり

馴染ませたり

 

適当なのか

的確なのか

 

だんだんと

 

見慣れたような

見慣れないような

顔ができあがる

 

眺めながら

私は

 

いろんなことを

わからないでいる


2017年 2150×1700
2017年 2150×1700

春月小唄

 

しとしと雨が止んだなら

ウキウキ準備は万端で

青空見えてきたならば

急いで急いで大きくなっちゃう

綺麗に錆を落としたコイツで

走って登って川を渡って

 

ブルルンブルルン

グツグツグツグツ

リュックパンパン

鍋沸かせ

 

あちらこちらで新芽が育って

一面若葉になる日まで

わたしと真昼のおつきさん

 

ブルルンブルルル

グツグツボコボコ

リュックパツパツ

ナベハコガスナ

 

一面若葉になる日には

わたしも真昼のお月様


2018年 1450×700mm
2018年 1450×700mm

触発

ちょっと触る
少し触れるだけで
感触を確かめる間もなく
走る痛み

囲まれて
絡まっても
かき分けて見つけた

そんなふうに
走り始めたら
切り傷や
かすり傷なんか
気にならないもの

ちょっと痛いだけ
そして
ちょっと楽しいだけ

ほらまた
血が出ちゃったな



日本画 院展 箔 箔画 箔絵 近藤仁 空翠会
2018年 2150×1600mm

蒼ノ食卓

蒼々とした草木は


やがて金色になって

その実や根や幹だけ残します。


海の中は春のようなもの。

色んな生き物が育ちます。


そうしてやがて

海の中から

がやって来て

陸は再び

蒼くなります。



私は

夜7時に間に合うよう

料理を作ります。

あくを抜き、皮を剥き

蒸したり焼いたり茹でたりして

食卓を準備します。


どれもこれも

あの蒼い風景から頂いたもの。

食べる分だけ頂いたもの。

明日は

ワカメの酢の物。


イタダキマス。



2019年 1450×700mm
2019年 1450×700mm

興夜


あんなもの
こんなもの

頁を捲るたび

静かに
ふけてゆく



2019年 M10
2019年 M10

春月

移ろいの中で

草木は

ゆっくりと

目を覚ます


薄明かりの

低い空に

昨日の

小望月




2019年 M6
2019年 M6

鯵ト鰶

美味しくて

参ってしまいます。

口に運べばみんな

お祭り騒ぎ。

そんな魚たち。


魚河岸で

キラキラした

彼らを見ていたら

その背中に

春の青い空を

感じました。




2019年 F80
2019年 F80

刻ノ色差

 

桜を見るたびに考えています

 

遠くから眺めていると

桃色の

その塊は

近づいてよく見ると

淡く

透明にも見えてくる

不思議なあの色について

 

 

はらはらと舞う

やさしい風景の傍らにある

これでもかとひしめき合う

途方もない数の

水面に浮いた

あの花びらたちについて

 

 

回転し

ねじれながら

ガリガリと空へ広がる幹や枝葉と

地中の根の大きさについて

 

 

考えているうちに花は散って

葉が青々と生い茂ります

赤茶色くなったなと思っていると

枝だけになっています

その時々で

色も表情も変える

なんとも不思議な

 

また春が来ます

 

 


2019年 F6x2
2019年 F6x2

蒼ノ食材-鯣烏賊・鯛-

 

みなさんは

蒼ノ食卓をご存知でしょうか

それはそれはすばらしい

旬の食材で

調理された料理が並んだ

理想ノ食卓でありました

 

春夏秋冬があった時代

たくさんの食材は

人間様が召し上がるため

殺され

形を変えられ

夜景の見える美しい部屋で

きれいなお皿に

まるでおいしそうに

盛りつけられておりました

 

この度の記憶

蒼ノ食材は

 

真鯛

鯣烏賊

袋布海苔

若芽

茎若芽

和布蕪

魚祭

 

となります

 

 

召し上がれ

 

 

 

 

 


2020年 1450×700mm
2020年 1450×700mm

ねこのねごと

 

わーおわーおうーおうーお

 

ういるさいなぁ

私は今

海藻の図鑑に夢中なの

 

 

にゃあぴゃあにゃあぴゃあ

 

うるさいなぁ

私は今

烏賊の塩辛づくりに夢中なの

 

てぃゆるんてぃゆぅぅきゅるんてぃゆぅぅ

 

うるさいなぁ

今は

鯛の鱗剥がしに夢中なの

 

わーおうーお

にゃあぴゃあ

てぃゆるんてぃゆぅぅ

 

まったくもう

うるさいなぁ

 

もうこんな時間だぞ

月夜茸の時間だぞ

 

うるさいなぁ

早く寝なさい

・・

 

さっきサンマ食べたでしょ

・・・

うるさいなぁ

・・・

 

わーお

ぴゃあ

きゅるん

 

明日は満月なのに

 

 


2019年 F6
2019年 F6

蒼ノ食材-鯣烏賊-

烏賊の吸盤中には
角質環という
ギザギザの輪がある
根本から
親指でしごくと
綺麗に取れる

烏賊は
古くなるほど
白い

2019年 F6
2019年 F6

蒼ノ食材-鯛-

飛び散って
厄介な鱗も
カリカリに揚げれば
美味

腸は
血抜きと

鯛には棄てるところが
ない

2019年 820×243㎜
2019年 820×243㎜

蒼ノ食材-細魚・針魚-

 

麗人と言われるだけはある

スッとした出で立ちで

群れをなし

色白の身

透けるような青い

口先には紅を差し

腹黒い

なんともはや


2020年 333×1060㎜
2020年 333×1060㎜

蒼ノ食材-槍烏賊・鑓柔魚-

 

ハタハタと耳を靡かせて

含んだ海水を一気に吐き出した。

怒っているのだ。

まるで星空のような模様が

波打ち

赤っぽく点滅している。

その瞬きが消えてゆくまで

じっと

見ていた。


2020年 2150×1700
2020年 2150×1700

蒼ノ食材-鱻-

 

頑丈な糸と

蒼い海が繋がると

潜っているような

景色を感じます。

 

頑丈な糸が

魚と

繋がれば

糸電話のように

生きた鼓動が伝わります。

 

またひとつ

鱻しい世界を

手に入れました。

 


第76回春の院展 近藤仁 落日夢 箔 箔画 箔絵 
2021年 1450x700mm

落日夢

不要不急の外出を控え

自宅で制作している間にも

日々は移ろい

季節は変わり

生き物はこれまで通り何も変わらず

命を燃やしています。

 

触った感触や

見つけた時の喜びは

板状のディスプレイから

伝わってこないので

今日も

海や山を歩くのです。

 

人は

日が暮れたら

眠れば良いのです。


2021年 F6
2021年 F6

冬ノ桜

最後にお花見をしたのはいつだろう。

秋らしくなってきた10月。 

香川ではソメイヨシノが咲いた。

数年前に桜を描かせて頂いた時は

毎年見られるものだと

簡単に考えていたけれど

ここ2年は遠くから

一人で眺めることしかできなかった。

来年こそは

花見酒。

いや月見酒。

朝日酒かな。

夕酒もよし。

サクラサケ。



2022年 M10
2022年 M10

偽月

ここ数年、空を見上げるごとに

満月と出会すことが多くなったような気がしています。

たとえ幾重の花びらに紛れていても

見つける自信はあります。


2021年 F4
2021年 F4

solitaire


活き活きと見えたり
とても儚く思えたり

鮮やかに感じたり
煩わしくなったり

恥ずかしくあり
誇らしくもあり

綺麗であり
汚くもある






2021年 F4
2021年 F4

蒼乃花


似ている者が
多いところでは
変わり者が
立つ。

変わり者が
多いところには
普通の人が
立つ。

世の中が
似た服を着ていたら
変わり者は
咲く。

2024年 M6
2024年 M6

幻蝶


2022年 M6
2022年 M6

酔蝶


2022年 M6
2022年 M6

恋酔月


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