私は、生き物が大好きです。
泳ぐ魚たち。日差しを堂々と浴びる植物たち。ひっそりと生えるキノコたち。行き交う人々。
ここにはそんなイキモノを題材にした作品を掲載しています。
真冬
草木は土の中で眠る
その息吹は大地を這い海を渡り
やがて春の空気とすれ違う
枝は夏の間
空をめがけその腕をどこまでも広げた
やがて葉は土へ還り
残されたその腕は眠っている
枯れていない
ただ待っている
地球の反対側の風が届くまで
スヤスヤと眠り続けている
わずかな若葉が
今にも枝の節目から顔をのぞかせようとしている
そろそろあの寝息は
地球の反対側に届いただろうか
そよぐ
木々は待つ
春を
漣は待つ
凪を
土は待つ
雨を
草は待つ
日差しを
田は待つ
稔りを
私は待つ
東京近郊を転々としている
埼玉に住みはじめた頃
海も山もない土地をあてなく走っても
ただ平らな大地が果てしなく続いた
私に何も入らないその風景は退屈そのもので
見たものが頭の後ろから
すぐに遠ざかっていった
やがて
自分の理想的な場所とは一体どんなところか考えたが
全く見当がつかないまま
再び引越しの準備に入っていった
思い出してみれば
どこにいても
飽きる度に去る事を
繰り返している
どっしりと腰を据え
変わってゆく事を受け入れ
生き続けたものたちは
風景になる
私が
まほろばに出会う頃には
私自身に
懲り懲りしていることだろう
綺麗な青空に
大きな入道雲が一つ
聳えている
外し忘れたカーテンが
丸く風を抱え
すぐに放した
さようなら埼玉
こんにちは神奈川
続々と 少年少女が集まって来る
縦笛が飛び出した ランドセル
ジャングルジムの脇が 彼らの 待ち合わせ場所なのか
若葉が芽吹く
春先の学校は 早くに終わった気がする
新しい友達ができると
それまで以上に 放課後が 楽しくなったものだ
枝がのびる
大きくなれ
大きくなってまた
アツマレ
大きくなっても
ノボレ
何があっても
大きくなあれ
咲いて
枯れて
散って
待ち
また咲いた
僕タチ
イキモノ
埼玉からここへ移り住んだ
駅前の大銀杏がこの町のシンボルだとすぐに気がついた
ここに住むことにした理由の一つに
この風景があった
住人は少ないが
この木の前を通り
皆
この町を出る
ある日
人々のうつしおみを見つめてきた
この大きな木が切り倒された
一段と広くなった青空
これも空蝉と
私は都心へ向かう
キラワレモノが
雨上がりの夜に 集まった
ほらよくみてごらん
キラワレモノタチを
教えてごらん
キライなわけを
何となくなんて
見ないで
それとなくなんて
話さないで
ヤツラは 許してくれないよ
美しい夜に
キラワレモノタチが
話し合って 決めたらしい
キミタチヲ
キラウコト
小学生の頃
昼寝している隙に家猫が窓の隙間をくぐり抜けた
目が覚めた夕方
何者かに蹴り殺された彼の死体が
隣の家の軒下から見つかった
学校からの帰り道は
決まって裏の森でキノコを採って帰る子供だったが
その森に母と弟は
泣きながらその屍を埋めに行った
父は私を猫殺しと罵り
それから私は父も猫も嫌いになった
25年たったある日
二匹の猫を飼おうと思った
森で見つけたキノコのせいなのだろうか
ただ木漏れ日を探しに森を訪れただけだった
今
私の脇に猫が二匹居る
私は
追いかけているのだろうか
追いかけられているのだろうか
暑くて寝苦しい
私ニハ
欲シイモノガ
山ホドアル
豊カニナリタイ
幸セニナリタイ
緑ニ囲マレ
ナニ不自由ナク
長生キヲシタイ
欲シイモノガ
山ホドアル
コノママデ
イタクナイ
僕ニハ
欲シイモノガ
何モナイ
貧乏ダケド
貧シクナイ
海ヲ見テ
山ヲ歩イテ
命ノ器ヲ
スキナコトデ
埋メ尽クス
欲シイモノハ
ナニモナイ
コノママデ
イタイ
塊ニナッテ
浮遊スル
ソレハ
魂ニナル
タッタ一夜ノ命
捩レテモ
開イテモ
ヨリ高ク
ヤブヲモ
枯ラス
ソノ
チカラ
カラミツケ
あなたの門出
日を追い
老いてく
絵を
描いた
この子が
くろぐろ
くたびれるまで
いついつまでも
初心です
レトロな椅子に腰かけて
何やら
慣れた手つき
塗って
触って
叩いたり
馴染ませたり
適当なのか
的確なのか
だんだんと
見慣れたような
見慣れないような
顔ができあがる
眺めながら
私は
いろんなことを
わからないでいる
しとしと雨が止んだなら
ウキウキ準備は万端で
青空見えてきたならば
急いで急いで大きくなっちゃう
綺麗に錆を落としたコイツで
走って登って川を渡って
ブルルンブルルン
グツグツグツグツ
リュックパンパン
鍋沸かせ
あちらこちらで新芽が育って
一面若葉になる日まで
わたしと真昼のおつきさん
ブルルンブルルル
グツグツボコボコ
リュックパツパツ
ナベハコガスナ
一面若葉になる日には
わたしも真昼のお月様
夏
蒼々とした草木は
秋
やがて金色になって
その実や根や幹だけ残します。
冬
海の中は春のようなもの。
色んな生き物が育ちます。
そうしてやがて
海の中から
春
がやって来て
陸は再び
蒼くなります。
私は
夜7時に間に合うよう
料理を作ります。
あくを抜き、皮を剥き
蒸したり焼いたり茹でたりして
食卓を準備します。
どれもこれも
あの蒼い風景から頂いたもの。
食べる分だけ頂いたもの。
明日は
ワカメの酢の物。
イタダキマス。
移ろいの中で
草木は
ゆっくりと
目を覚ます
薄明かりの
低い空に
昨日の
小望月
美味しくて
参ってしまいます。
口に運べばみんな
お祭り騒ぎ。
そんな魚たち。
魚河岸で
キラキラした
彼らを見ていたら
その背中に
春の青い空を
感じました。
春
桜を見るたびに考えています
遠くから眺めていると
桃色の
その塊は
近づいてよく見ると
淡く
透明にも見えてくる
不思議なあの色について
はらはらと舞う
やさしい風景の傍らにある
これでもかとひしめき合う
途方もない数の
水面に浮いた
あの花びらたちについて
回転し
ねじれながら
ガリガリと空へ広がる幹や枝葉と
地中の根の大きさについて
考えているうちに花は散って
葉が青々と生い茂ります
赤茶色くなったなと思っていると
枝だけになっています
その時々で
色も表情も変える
なんとも不思議な
樹
また春が来ます
みなさんは
蒼ノ食卓をご存知でしょうか
それはそれはすばらしい
旬の食材で
調理された料理が並んだ
理想ノ食卓でありました
春夏秋冬があった時代
たくさんの食材は
人間様が召し上がるため
殺され
形を変えられ
夜景の見える美しい部屋で
きれいなお皿に
まるでおいしそうに
盛りつけられておりました
この度の記憶
蒼ノ食材は
真鯛
鯣烏賊
袋布海苔
若芽
茎若芽
和布蕪
魚祭
となります
召し上がれ
わーおわーおうーおうーお
ういるさいなぁ
私は今
海藻の図鑑に夢中なの
にゃあぴゃあにゃあぴゃあ
うるさいなぁ
私は今
烏賊の塩辛づくりに夢中なの
てぃゆるんてぃゆぅぅきゅるんてぃゆぅぅ
うるさいなぁ
今は
鯛の鱗剥がしに夢中なの
わーおうーお
にゃあぴゃあ
てぃゆるんてぃゆぅぅ
まったくもう
うるさいなぁ
もうこんな時間だぞ
月夜茸の時間だぞ
うるさいなぁ
早く寝なさい
・・
さっきサンマ食べたでしょ
・・・
うるさいなぁ
・・・
わーお
ぴゃあ
きゅるん
明日は満月なのに
麗人と言われるだけはある
スッとした出で立ちで
群れをなし
色白の身
透けるような青い
骨
口先には紅を差し
腹黒い
なんともはや
ハタハタと耳を靡かせて
含んだ海水を一気に吐き出した。
怒っているのだ。
まるで星空のような模様が
波打ち
赤っぽく点滅している。
その瞬きが消えてゆくまで
じっと
見ていた。
頑丈な糸と
蒼い海が繋がると
潜っているような
景色を感じます。
頑丈な糸が
魚と
繋がれば
糸電話のように
生きた鼓動が伝わります。
またひとつ
鱻しい世界を
手に入れました。
不要不急の外出を控え
自宅で制作している間にも
日々は移ろい
季節は変わり
生き物はこれまで通り何も変わらず
命を燃やしています。
触った感触や
見つけた時の喜びは
板状のディスプレイから
伝わってこないので
今日も
海や山を歩くのです。
人は
日が暮れたら
眠れば良いのです。
最後にお花見をしたのはいつだろう。
秋らしくなってきた10月。
香川ではソメイヨシノが咲いた。
数年前に桜を描かせて頂いた時は
毎年見られるものだと
簡単に考えていたけれど
ここ2年は遠くから
一人で眺めることしかできなかった。
来年こそは
花見酒。
いや月見酒。
朝日酒かな。
夕酒もよし。
サクラサケ。
ここ数年、空を見上げるごとに
満月と出会すことが多くなったような気がしています。
たとえ幾重の花びらに紛れていても
見つける自信はあります。